孔雀王より



「ここは裏高野最高の聖地…かぐや姫ルックです。
 弘法大師空海上人様の即身仏が眠る御廟…
 どういうことです…? 鳳凰」
 孔雀の魂を質に取った破戒僧鳳凰の罠と知りつつも、後ろにつき従う裏高野女人堂の主、月読は尋ねた。
「今に分かりますよ。それより…
 月読様は"維那(いな)"という者をご存知か?」
「…表の高野の古の僧階の一つ
 大僧正にも匹敵する尊い位。その者のみが御廟に立ち入ることを許され、
 即身仏の世話をするのが役目…」
「さすが月読様。じゃあ"維那女(いなめ)"はどうです?」
「………」
「こっちは知らないようだな。この裏高野での同じ役ですよ。
 ただ、こちらは我らが上人様が入滅されすでに千年…
 生前と同じく、いまだにそんななことが行われてるというのが、大きく違うところ…」
「……?」
「上人の即身仏(ミイラ)がまだ完全には死んじゃいないからですよ」
 不適な笑みを浮かべ鳳凰は断言した。
「だから…ミイラとはいえメシも喰えば衣服もかえる…
 ククク…そして、煩悩もな……」
「ま、まさか維那女とは…」
「ええ…察しがいい。
 そして月読様。あんたにここへ来ていただいた理由もお分かりですね」
「ば…ばかな、鳳凰…お前、何を!?」
「上人の煩悩をかきたてられるのは…
 この裏高野の、最高の女…月読様…あんただけだ」
「け、汚らわしい…、そのような事、私にできるはずが…」
 うそぶく鳳凰に詰め寄る月読、

「いいのかよ月読!!
 このまま放っておきゃ孔雀は死ぬぜ!
 あんた孔雀を見殺しにするのか!
 冥府に落ちた孔雀の救う術は上人様のみが知るんだ!」
 慇懃無礼の仮面を脱捨て鳳凰は、月読の胸倉を掴み上げ、怒号する。
「それだけじゃねえ!
 孔雀が本当にあんたの言う光の守護者なら、奴の死とともに、この裏高野もすべてが終わりだ…」
「………」
「さぁ…どうする月読様…。ここまで教えてやったんだ。道は二つしかねえんだぜ…」

 長い沈黙。
「…………二人だけにして下さい」
 


 薄明かりの御廟の暗闇の中、はらりと着物を落とし、
滑るような白磁の肌をあらわにする月読。
 そのかたわらには、物云わぬ
干乾びた骨と皮の屍のように見える空海上人の即身仏がある。



 一方、鳳凰は、
「よう 遅かったじゃねぇか
 目の前のそれは破地獄曼荼羅…一歩でも踏込めばチリも残さず地獄行きの結界よ」
 御廟奥の院の入口で立ち往生する裏高野 第二位、権の大僧正 日光らの前に
魂の抜かれた孔雀の躯を高らかに、鳳凰が姿を現した。
「ククク…見な。孔雀は死に、月読は我が手に落ちた
 もう 誰もこのオレを止められねえ…」
「鳳凰…きさま何が望みだ」
「オレに望みなんか何もねえよ。
 ただ、この世のすべてが気に入らねえのさ…
 裏高野、この世界の決まりや秩序、形あるものを全てぶっ壊してえだけよ」
 狂気をあらわに鳳凰は笑みを浮かべる。
「間もなく、上人が動く…分かるよな。この意味が?」
「外道が…冥府の扉か」歯軋りする日光。
「ああ…その通りだ。
 冥府の門が開かれし時、天界との戦いに破れ、冥府に封じ込まれた魔族が地上に甦る」
( だがなオレは月読に嘘は言っちゃいねえ。
 たしかに孔雀は今冥府にいるんだろうからな。
 もし魔族どもに魂を貪り喰われてなれば、
 それこそパンドラの箱…すべての悪が放たれた末の、
 最期の希望になれるのかもな)



『…三獏三没駄野胆爾也他 庵 凧殺…』
 全裸で前だけ着物で覆い隠したままの姿で秘術を進める月読。
「はっ?! あ、ああ…
 み、見える……孔雀」
 月読は生まれつき目が見えない。だが、光り無きその目は世の人には見えぬものまで見通すことが出来るのだ。
その月読の心眼に 冥府のよどみの中で力無く蹲る失意の孔雀の姿が写った。

(そう…冥府で運命に逢ってしまったのですね。お父様のたどった道に…
 世を憂うが為に闇に堕ち裏高野をおわれた あなたのお父様、慈覚。
 その悲しみが、不条理が、どんなに深くても あなたは前に進まねばならぬのです。
 お父様が あなたに与えた魔神、孔雀王の宿命の本当の意味を知るために…)

「あなただけは信じなければなりません。
 あなたのお父様なのですから…」

「……そうですね。
 わたしも、わたしもあなたを信じます…
 わたしの名は月読。
 兄、日光が闇を誅殺する太陽なら、わたしは闇の心を救う月」
 闇の悲しみをも見通す瞳から落ちる涙と共に、羞恥が為に己が身を隠していた衣を月読は脱ぎ捨てた。


お話が分かりずらい?


孔雀王より
月読、孔雀(体育座りしてる袈裟懸けの男)


「月読」

 お休みの日に引越しの荷物広げてたら、昔学生の頃描いた絵がいっぱい見つかりまして、これもその一枚です。
いつ描いたかもおぼろげなモノクロの絵に着色していく作業は、なんか人様の絵を改造してるような気分にもなったりしましたね。
 「孔雀王」…、時代劇、忍者物以外の和風オカルト漫画の走りでしょうか。
私は孔雀王と「宇宙皇子(うつのみこ)」(藤川圭介著 挿絵いのまたむつみの小説)で
「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前」の九字の呪言覚えました。あの頃は印も組めたのになぁ…
劇中では出番少なかったのですが、この月読様大好きでしたね。シーンは第一期シリーズ裏高野編(?)よりです。
マッドハウスの作画の綺麗なOVA「真・孔雀王」で原作完全映像化をマジでして欲しかったと思ってましたね。
あ、ちなみに映画(?)「孔雀王 幻影城」のヒロイン娘の阿修羅の全裸戦闘シーンはうるし原智志が原画やってたそうです。
 月読とはあまり知られてないようですが、古事記よりアマテラス、スサノオ、と並ぶ三御子(みはしらのうづのみこ)が一人ツクヨミからのネーミング。

2001-10/31