「エメラルドドラゴン」より


「タムリンはアトルシャンのお嫁さんになるの」
(タムリン7歳)


伝説の聖地イシュ・バーン……。
その昔、そう呼ばれる国があった。

そこはかつて、人とドラゴンとが共存し、
平和を築き上げた理想郷であったという。

そう、その日がくるまでは。

脅威はあまりに突然、その地を襲った。
ドラゴンたちだけを死に至らしめるという邪悪な呪いが、
イシュ・バーン全土を覆い尽くしたのだ。
ドラゴンたちはその呪いから逃れるために、時空のかなたへ飛び去り、
新たな地に住み着いた。

そしてそこは『ドラゴン小国』と呼ばれた。

なかにはイシュ・バーンにとどまる者もいたが、みな死に絶えて、
以後彼らの姿を見た者はいない……。

そして、時は流れる。


ある日、一隻の難破船がドラゴン小国に流れ着いた。
それは、次元の隔たりを越えてやってきたイシュ・バーンからの船だった。

生存者は小さな女の子がたったひとりだけ……。
女の子は「タムリン」と名付けられ、
100年ぶりに生まれたブルードラゴンの子供「アトルシャン」とともに大切に育てられた。

長生きはしても、子供に恵まれることの少ないドラゴンにとって、
小さな命の尊さはドラゴンも人も変わりはない、
ということが何にもまして強い信念だったのだ。

「夢のような時間が 思い出となって 駈けぬけていくく」

二人はすぐに仲良くなり、
幸せな時間がいつまでも続くかのように見えた。

12年の歳月が過ぎた。

タムリンは美しい少女に成長していた。

しかし、ドラゴンの長老はそんな彼女を見て思うことがあった。
大切に育ててきたタムリンではあるが、
人はやはり人の中で生きるべきではないのか……?


そして、タムリンも同じことを考えていた。


『…待って、聞いて アトルシャン。
わたしは人間なのよ。
わたしも出来ることなら みんなと暮らしたい。
でも このまま ここにいても いずれ つらい別れが来るでしょう
それに 聞いたの。今、イシュバーンは大変なことになっているって…
多くの人が悲しみにくれていると…
それを知った上で わたしだけここで平和に暮らすなんて出来ない!』

彼女の口から別れの言葉を聞いたとき、
アトルシャンは自分の角を一本折ってタムリンに渡し、優しく告げた……

『タムリン、これで角笛をつくって持って行くんだ。
そして、もし、君が僕を必要になった時、それを吹くんだ。
僕はいつでもすぐに君の元に駆けつけるから……』



タムリンがイシュ・バーンに帰って3年の月日が流れた頃、
どこからともなく現れた魔の軍隊によって、イシュ・バーンは死と破壊と恐怖におおわれた。
タムリンが住む町にも、魔の手は容赦なく押し寄せる。

そんな戦乱の中でついに彼女は魔軍と戦うことを決意した!
そして、幼なじみのアトルシャンを呼ぶべく、

タムリンは祈りの丘で角笛を吹いた……




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